真空装置とは?
構成部品の解説と主な真空装置
真空装置とは?
構成部品の解説と主な真空装置
真空と聞くと「空気などの物質が存在しない空間」だと考えている方が多いのではないでしょうか。実際に辞書でもこのような表記がされています。
しかし、科学的な面から見た場合は「空気などの物質が存在しない空間」という認識は半分間違っています。なぜなら、JIS(日本工業規格)では真空は「大気圧より低い圧力で満たされた状態の空間」を指すからです。
大気圧というのは普段の生活で私達に掛かっている空気の圧力です。このことから考えると、布団圧縮袋の中に入っている空気を掃除機で吸って圧縮した内側の状態も真空であると言えます。
反対に、空気の薄い高山では気圧は地上よりも低くなりますが、大気圧下であるため真空とは表現しません。
真空状態の空間が自然界でも何らかの形でできることもあるかもしれませんが、基本的に真空状態は人為的に空間の圧力を下げることと考えるとわかりやすいでしょう。
ちなみに、辞書に載っている「空気などの物質が存在しない空間」は、科学的な考えでは「絶対真空」と呼ぶものになります。しかし、絶対真空は人間の持っている技術では絶対に実現できないとされています。
・ 液晶ディスプレイ
・ 半導体素子
・ 有機ELディスプレイ
・ ソーラーパネル
・ 航空宇宙・人工衛星(真空評価環境を作るため)
・ 医療機器(粒子線治療)
・ 食品(フリーズドライ)
真空装置とは、先程解説した「真空状態」を生み出し、真空の特性を使ってなんらかの加工や物質を製造する機械を指します。
真空装置には様々な機能を持ったものがあります。
共通する構成として
・ 真空ポンプ・・・真空にするため真空チャンバー内部の物質を放出する
・ 真空チャンバー・・・真空状態を保持する空間
・ 真空バルブ・・・真空ポンプと真空チャンバー間の異なる圧力を分離する部品
・ 真空計・・・真空チャンバーないの圧力を測定する
の4つがあげられます。
真空チャンバー内部の空気を外に出すためには、真空ポンプを使う必要があります。真空装置で、目的の圧力に到達するためには、真空ポンプの性能が十分な空気の輸送能力を持っている必要があります。また、目的の圧力に到達する時間も、使い勝手に大きく影響します。そのため、真空ポンプでは目的の圧力と、目的の圧力に到達する時間からポンプの性能を決めていきます。
真空ポンプにはたくさんの種類がありますが、大別すると、
・ 気体輸送式真空ポンプ
・ 気体溜め込み式真空ポンプ
の2種類に分けることができます。
気体輸送式真空ポンプは、掃除機や換気扇のような仕組みを想像するとわかりやすいでしょう。モーターなどで物理的に気体を動かし外部に排出するタイプを指します。代表的なものでは「ダイアフラム型真空ポンプ」「揺動ピストン型真空ポンプ」「油回転式真空ポンプ」などがあげられます。
気体溜め込み式ポンプでは、溜め込んだ気体を冷却することで凝縮したり、加熱して昇華させたりすることで、外部に気体を排出する仕組みを持ったものを指します。代表的なものでは「ソープションポンプ」「ゲッタポンプ」「ゲッタイオンポンプ」などがあげられます。
真空チャンバーは、真空状態を保持するために必要な構造体です。真空ポンプを使って、真空チャンバー内の空気を排出すると真空チャンバー内の圧力が下がってきます。そうすると、これまで真空チャンバーを内側から支えていた空気がなくなってしまうため、外側から大気圧がダイレクトにかかることになります。
真空チャンバーは支えがなくなった状態で、大気圧に耐えるだけの強度を持つ必要があります。空のペットボトルに口をつけ、密閉した状態で息を吸うとペットボトルがボコッと凹むのが想像できるでしょう。内部に空気が入っていると頑丈だったペットボトルも、軽く空気を抜くだけで簡単に変形してしまいます。
発生した低圧に真空チャンバーが耐えられなくなると、ペットボトルのように真空チャンバーが凹んでしまいます。真空装置ではペットボトルの例よりも飛躍的に圧力が低くなるため、真空チャンバーは相当な強度を必要とします。低圧の要求度が高い真空装置では、真空チャンバーの強度がより必要になることを覚えておきましょう。
真空バルブは、真空チャンバーと真空ポンプ間の異なる圧力を遮断する役割があります。圧力を遮断する役割を持ったバルブを「遮断バルブ」と呼びます。遮断バルブには「ゲートバルブ」「L型バルブ」「ストレートバルブ」などの種類がありますが、圧力などによって使い分けます。
遮断バルブの他に、真空チャンバー内に特定のガスを注入する「コンダクタンスバルブ」と呼ばれるものもあります。こちらは真空チャンバー内の圧力を保ちながら、チャンバー内にガスを充満させる役割があります。
真空計は、大気圧以下の圧力を測る測定器です。どのような設計の真空計であっても、すべての圧力を一つの真空計で測定できるものはありません。そのため、利用する圧力によって使い分けする必要があります。最近では測定できる圧力帯の異なる真空計を複数セットした複合真空計も販売されています。
真空装置は、製造業、医療、半導体などの分野で利用されています。利用されている代表的な真空装置とその用途について解説していきましょう。
・ 真空薄膜形成・加工装置
・ 真空冶金装置
・ 真空熱処理装置
・ 真空化学装置
真空薄膜形成装置は「真空蒸着」「CVD法」「スパッタリング」などの技術を使って薄い膜を製品表面に形成する装置全般を指します。一例を上げると真空蒸着では、真空中で蒸着材料を加熱して気化させることで製品表面に薄膜を形成します。
カメラや顕微鏡といったレンズのコーティング、太陽光パネルなどの表面のコーティング、半導体に使われるシリコンウェハーの絶縁被膜形成など、様々な用途で利用されています。
真空化学装置は、真空中で化学反応を行う装置です。物質を反応・分離・蒸留・冷凍・濃縮などありとあらゆる化学反応で利用されます。
化学反応に用いられる物質は気体・液体・固体を問いません。処理の最中に気体・液体・個体の相変化を伴う場合もあります。
医薬品や化学薬品の合成など、幅広い用途で利用されます。
冶金とは粉末状の金属を押し固めて、高温で焼き固める工法を指します。完全に溶解する加工法に比べて形状の自由度が高く、溶融温度が高温の金属などでも利用されるため、よく使われる工法です。
一般的な冶金は大気中で加工します。しかし、大気中で粉末状の金属を高温で加熱すると、酸化などの化学反応を起こしたり、製品内部にガスがたまったり、不純物が混ざって変質したりなどの問題が発生します。
真空中で冶金を行うことで、製品内部の脱ガス効果を得られたり、酸化などの化学反応を防止できます。また、大気中ではチタン、ジルコニウム、ウランなどの活性金属を溶解することはできませんが、真空中では冶金や鋳造ができるようになります。
真空冶金装置は、航空機のジェットエンジンの材料製造や高速度鋼などの切削工具の製造など、製造業用途として主に利用されています。
真空熱処理装置は、鋼などの金属に焼入れ・焼きなましなどの熱処理を施す装置です。
一般的な鋼の熱処理は大気中で行われますが、冶金と同じように高温で処理する際に酸化皮膜などができてしまいます。真空熱処理装置を使って熱処理を行えば、酸化皮膜などの生成や脱炭を最小限に抑えることができます。
酸化を嫌う製品などの最終処理として製造業でよく利用されています。